本記事では、Advanced Software Design事件(Advanced Software Design Corp. v. Fiserv Inc. (Fed. Cir., Aug. 5, 2011))について説明したいと思います。関連するAkamai事件(Akamai事件を踏まえたクレーム作成)については以下の記事をご参照下さい。
要点
Advanced Software Design事件ではAkamai事件同様、複数主体による特許の実施が問題になりました。本件では最終的には特許権侵害が認められましたが、特にクレームのpreamble(プリアンブル)の取扱いが争点となりました。結論としては以下の2点が押さえておきたいポイントです。クレーム作成にも役立つ事件の一つであると考えられますのでここで取り上げたいと思います。
- 原則的には方法クレームは単一主体が実施していなければ直接侵害にならない(One Entity rule)
- ただしクレームのプリアンブルの内容は発明の前提条件等の環境(Environment)を規定するものであるため、プリアンブルの内容を別主体が実施していても直接侵害が成立する。
本事件の解説
以下、本事件の中身について触れていきたいと思います。本事件は、Advanced Software Design社が特許権者で、Fiserv社が被疑侵害者である侵害訴訟事件です。Fiserv社の製品はAdvanced Software Design社の特許(US6792110、以下’110特許)の方法を使用していたため、Advanced Software Design社が訴訟を提起しました。Fiserv社による当該方法の使用には複数主体が関与していました。以下、’110特許の内容及び被疑侵害者による行為を具体的に解説します。
‘110特許の概要
‘110特許の対象は、小切手の偽造等の不正行為を防止する技術に関するものです。小切手に関するの情報が暗号化されたバーコードを小切手に印刷し、そのコードを用いることで小切手の偽造等を検証できるようにするというものです。書誌事項は以下のとおりです。
- 特許番号: US6,792,110
- 発明の名称: Apparatus and method for enhancing the security of negotiable instruments
- 特許権者(登録時): ADVANCED SOFTWARE DESIGN Corp.
- 出願日: 2002/7/1
- 登録日: 2004/9/14
代表クレーム
クレーム1の骨子
‘110特許の代表クレームはClaim 1で、その骨子は以下の通りです。概要として以下のようなクレームの構成となっています。
- 小切手記載の情報(例:金額情報)を、キーに基づき暗号化
- 暗号化した金額情報に基づきバーコードを生成して小切手に印刷
- 小切手を読み取る
- 検証処理を実行
(バーコードの復号処理を行い金額情報を取得。小切手記載の情報と相違があれば小切手の取扱いを拒否(又は小切手記載の情報を、再度暗号化してバーコードを再度生成。当該バーコードと小切手記載のバーコードとを比較して相違があれば小切手の取扱を拒否))
クレーム1の文言
代表クレーム(Claim 1)は以下の通り、方法クレームです。
1. A process of validating a negotiable financial instrument made by a payor, in which selected information found on the financial instrument which varies for each instantiation of the financial instrument made by the same payor is encrypted in combination with key information not found on the financial instrument to generate a control code which is printed on the financial instrument along with the selected information, the process comprising:
US6792110
reading the selected information from the financial instrument; and
one of (i) decrypting the control code to thereby obtain decrypted information whereby the cheque validator may refuse to honour the financial instrument if the selected information found on the financial instrument does not match the decrypted information, and (ii) re-encrypting the selected information as presented on the financial instrument to re-obtain a second control code, whereby the cheque validator may refuse to honour the financial instrument if the second control code does not match the control code printed on the financial instrument.
【メモ】クレームの各文言の意味は以下の通りです。
- financial instrumentは”a cheque”(小切手)を含む概念です。
(本願明細書の “Background of the invention”欄参照) - selected informationは、小切手の金額、受取人名を含む概念です。
(本願明細書のclaim 7, 8) - control codeは、小切手に印刷されているバーコードを含む概念です。
(本願図面の Fig 1C, 110) - 2つ目の処理については、one of (i) decrypting …, and (ii) re-encryptingと択一で並列されているため、このどちらかの処理が行われる場合が特許の技術的範囲に含まれます。同様の処理をこのように択一的に併記することで両方の技術を1つのクレームでカバーすることができます。
被疑侵害者の行為
Fiservは、上記骨子に記載した3及び4のステップ(読み取り処理、検証処理)のみを実施しており、1及び2のステップ(暗号化及び印刷処理)は実行していませんでした。1,2のステップはFiservとは異なる主体が実行していました。すなわちAkamai事件同様、複数主体による特許の実施が問題になりました。
裁判所の判断
結論は上述の通りで、本件は最終的には特許権侵害が認められました。特に本件の場合、クレームの記載において、上記1及び2のステップ(暗号化及び印刷処理)がクレームの本体部ではなく、プリアンブルに記載されていたことがポイントとなりました。プリアンブル記載の内容によりクレームの技術的範囲が限定されることについては、両者に争いはありませんでした。しかし、プリアンブル記載の内容が別の主体により実行された場合については争いがありました。裁判所は、プリアンブル記載の内容は単一の主体により実行される場合も、別の主体により実行される場合もいずれも含む、すなわち、クレーム本体部が単一主体により実行されていれば特許権侵害が成立すると結論を下しました。理由としてはプリアンブル記載の内容は本特許のEnvironment(環境)を示しているに過ぎず、必ずしも同一の主体により実行されなくてもよいものであるということです。
まとめ
Advanced Software Design事件ではAkamai事件同様、複数主体による特許の実施が問題になりました。特にこの事件では、プリアンブルに発明の特徴の一部を記載していたことがポイントとなり、特許権侵害が認められました。クレームのプリアンブルと本体部とを書き分ける際の参考になれば幸いです。ここまで読んで頂きありがとうございました。



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