米国特許出願でマルチクレームを使用するメリットは?

米国実務

日本の特許でよく見かけるマルチクレームは米国出願する際に、よく問題になります。ここではマルチクレームのメリットと、米国出願をする場合のベストな対処法を説明したいと思います。

まずは結論:米国出願でマルチクレームを使うメリットはありません。

見出しに記載の通り、米国出願でマルチクレームを使うメリットは全くなく、デメリットしかありません。日本出願を基礎として米国出願する場合、マルチクレームを必ず無くすことが最善策です。以下、詳細に見ていきたいと思います。

マルチクレームとは何か?

マルチクレームとは、複数のクレームに従属するクレームです。英語では multiple dependent claim と言われ、日本の実務ではマルチクレームと呼ばれています。日本の特許クレームでよく「請求項1~3のいずれか一項に記載の装置であって・・・」という表現がされています。このクレームの場合、請求項1~3の3つに従属しているため、マルチクレームです。

マルチクレームのデメリット

端的には、米国でマルチクレームを使うとコストが跳ね上がるのがデメリットです。マルチクレームを1つでも含む場合、出願手数料の加算料金として$860が加算されます。

ここで米国特許出願に必要な費用は$1820で内訳は以下の通りです。

  • 基本出願手数料:$320
  • 調査手数料: $700
  • 審査手数料: $800

マルチクレームの加算料金が如何に過大であるかがわかると思います。

また、出願手数料は、クレーム数によっても変わります。具体的には以下の通り加算されます。

  • 独立クレームが3個を超える場合、超えた数の分のクレーム当たり$480
  • 総クレーム数が20個を超える場合、超えた数の分のクレーム当たり$100

ここでマルチクレームは、従属しているクレーム数分のクレームとしてカウントされます。例えば 「請求項1~3のいずれか一項に記載の装置であって・・・」 というクレームの場合、クレーム数は3としてカウントされます。したがってマルチクレームを含む場合には、クレーム数も超過する可能性が高くなり、その点でも超過料金が必要になることがあります。

※手数料は定期的に改定されます。最新の情報は、以下のUSPTOの料金表のwebsiteをご確認下さい。

USPTO fee schedule
Current fee schedule Printer friendly version

具体的な対処(補正方法)

以上の通り、米国出願ではマルチクレームは百害あって一利なしです。米国出願時(PCT出願の場合には米国移行時)に必ず補正するようにしましょう。また補正する際には、できる限り多面的に保護できるように、各従属先に従属する形に補正するのが好ましいです。上述のクレーム数の超過料金に気をつけながら補正をするのが得策です。

例えば以下のようなクレームがあった場合は、どうするのがいいでしょうか?

  • 請求項1:・・・を特徴とする装置
  • 請求項2:請求項1に記載の装置であって・・・。
  • 請求項3:請求項1又は請求項2に記載の装置であって・・・。

この場合は、以下のように請求項3の一部を削除補正、請求項4を追加する補正をするのが得策です。このように補正すれば、マルチクレームの加算料金を支払う必要なく、かつマルチクレームと同様の権利範囲にて、基本料金にて米国出願ができます。

  • 請求項1:・・・を特徴とする装置
  • 請求項2:請求項1に記載の装置であって・・・。
  • 請求項3(Currently amended):請求項1又は請求項2に記載の装置であって・・・。
  • 請求項4(New):請求項2に記載の装置であって・・・。

日本の実務ではどうなの?

結論として、日本の実務では積極的にマルチクレームを使ったほうが良いです。

日本の実務では上述の米国のようなデメリットはありません。日本の特許出願のコスト(審査請求時の特許庁に支払う手数料)はクレームの個数で増加するものの、マルチクレームは1クレームとしか加算されません。したがってコスト的にも有益です。むしろマルチクレームを使うことでクレームを多面で規定でき、発明を多面的・より段階的に保護できるというメリットがあります。

さらに日本の場合、マルチクレームをさらにマルチで従属させることも許容されています(米国では違反)。このクレームは、マルチマルチクレームといいます。具体的には以下のような場合の請求項4が該当します。請求項3がマルチクレームで、請求項4はマルチクレームを含む複数のクレームに従属しているため、マルチマルチクレームです。

  • 請求項1:・・・を特徴とする装置。
  • 請求項2:請求項1に記載の装置であって・・・。
  • 請求項3:請求項1又は請求項2に記載の装置であって・・・。
  • 請求項4:請求項1~3に記載の装置であって、・・・

マルチマルチクレームも、日本の実務では1クレームとしてカウントされます。マルチマルチクレームも、発明をさらに多面的に規定でき、発明をより多面的に保護できます。

まとめ

以上説明したとおり、米国ではマルチクレームを使うメリットがありません。米国出願時にはマルチクレームを補正するようにしましょう。

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