35USC102(b)(1) Grace Period内の開示の注意点

米国実務

別の記事にて35USC102(b)の解説をしましたが、ここではより突っ込んだ内容として、Grace Period内の開示の注意点について解説します。結論としては、 35USC102(b)(1)(A)は発明者の同一性、 35USC102(b)(1)(B)は、発明対象の同一性がポイントです。以下それぞれ見ていきたいと思います。35USC102(b)については以下の記事をご参照下さい。

35USC102(b)(1)(A) – ポイントは発明者の同一性

まず35USC102(b)(1)(A)では、Grace Period内における発明者等による発明の開示は、102(a)(1)の先行技術にはならないとしています。具体的には以下の3つの要件を満たす場合には、102(b)(1)(A)の例外適用を認めるとしています(MPEP 2153.01(a) Grace Period Inventor Disclosure Exception)。

  • クレーム発明の有効出願日よりも1年前以内に開示されていること
  • 発明者又は共同発明者を著者又は発明者と記名していること
  • 他の者を、刊行物の著者、又は特許の共同発明者として記名していないこと

発明者の同一性が認められる典型例

MPEPの同セクションでは、発明者の同一性が認められる典型例が挙げられています。具体的には以下の図のような場合に 102(b)(1)(A)の例外適用を認めるとしています。

ポイントは、Grace Period内での開示が2名の著者(X,Y)で、特許出願の発明者が3名(X,Y,Z)ということです。このように発明者が増えた場合でも、先程の3つの要件は全て満たされることから 102(b)(1)(A)の例外適用が認められます。

発明者の同一性が認められない典型例と対処方法

次に、発明者の同一性が原則的に認められない典型例が挙げられています。具体的には以下の図のような場合に 102(b)(1)(A)の例外適用を原則的に認めないとしています。

ポイントは、Grace Period内での開示が3名の著者(X,Y,Z)で、特許出願の発明者が2名(X,Y)と減っているいうことです。このように発明者が減った場合には、先程の3つの要件のうち3つ目の要件を具備しません。そのため、102(b)(1)(A)の例外適用を原則的に認めないとしています。

この場合の対処方法は?

上記の場合の対処方法も、MPEPに記載されています(MPEP 2155.01 Showing That the Disclosure Was Made by the Inventor or a Joint Inventor)。ポイントとしては、デクラレーション(37 CFR 1.130(a)のデクラレーション)を提出して、デクラレーションの中で例外適用の主張をすることができます。上記の場合、具体的にはデクラレーションにてXとYが発明aの発明者であり、Zは発明aには関与していないことを主張すること、当該主張を裏付ける証拠を提出することで、102(b)(1)(A)の例外適用を受けられます。

日本の30条の場合でも、実験の補助者とか管理者が問題になりそう。同じような措置は日本にはある?

日本の特許法30条でも同様の措置があります。日本の場合には、デクラレーションという仕組みはありませんが、「新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書」に、Zが実験補助者等であることを記載することにより30条の適用を受けられます(新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手引き – 特許庁 参照)。

35USC102(b)(1)(B) – ポイントは発明対象の同一性

次に35USC102(b)(1)(B)を見ていきましょう。35USC102(b)(1)(B)では、Grace Period内における他人の開示の前に発明者等が発明を先開示した場合には、102(a)(1)の先行技術にはならないとしています。具体的には以下の2つの要件を満たす場合には、102(b)(1)(B)の例外適用を認めるとしています(MPEP2153.02 Prior Art Exception Under AIA 35 U.S.C. 102(b)(1)(B) to AIA 35 U.S.C. 102(a)(1))。

  • クレーム発明の有効出願日よりも1年前以内に開示が行われていること
  • 開示された発明の主題が、発明者等(発明者、共同発明者、又は他人であって発明者又は共同発明者から直接的又は間接的に開示された発明の主題を知得した者)によって先に開示されていること

ここで、発明者等による先開示と、その後の開示(intervening disclosureと言われます。)との内容は、一言一句同一である必要はなく、また開示の態様が異なってもよいとされています(同上)。「開示の態様が異なる」とは、例えば先開示が特許文献であって、intervening disclosureが販売・公用であるように、発明の主題の開示方法が異なってもよいということです。

ただし、先開示に記載されていない内容、概念的に上下で相違する場合、先開示とintervening disclosureとの間の発明の同一性が問題になってきます。このあたりについて、MPEP2153.02に詳しく記載されていますが、以下、留意点1〜3としてそれぞれの場合のポイントを分かりやすく図解にてまとめています。

留意点1:先開示に記載されていない内容

先開示に記載されていない内容がintervening disclosureに開示されている場合は、intervening disclosureに記載の当該内容は先行技術になります(例外適用はありません)。例えば下図のように、先開示が発明α、βを開示していれば、Intervening disclosureにてα、βに関しては例外適用があります。しかし、Intervening disclosureに開示された発明γについては、例外規定の適用は受けられません。

留意点2:先開示の内容がintervening disclosureの開示内容の上位概念である場合

先開示の開示内容が上位概念であり、intervening disclosureの開示内容が下位概念である場合は、intervening disclosureに記載の開示内容(下位概念)は先行技術になります(例外適用はありません)。MPEPでは上位概念をgenus(属)、下位概念をspecies(種)として表現しています。この表現はelection requrement(選択要求)におけるものと同一です。例えば下図のように、先開示に発明Aが開示され、Intervening disclosureにて、発明Aの下位概念αが開示されている場合、Intervening disclosureに開示された発明αについては、例外規定の適用は受けられません。

また下位概念の発明αにより、上位概念の発明Aは新規性欠如(102(a)(1))に基づき拒絶されます。この部分の考え方は日本の特許実務における新規性の考え方と同様です。

留意点3:先開示の内容がintervening disclosureの開示内容の下位概念である場合

上記とは逆に、先開示の開示内容が下位概念であり、intervening disclosureの開示内容が上位概念である場合は、intervening disclosureに記載の開示内容(上位概念)は先行技術になりません(例外適用を受けられます)。例えば下図のように、先開示に発明αが開示され、Intervening disclosureにて、発明αの上位概念Aが開示されている場合、Intervening disclosureに開示された発明Aについては、例外規定の適用を受けられます。

まとめ

ここではGrace Period内の開示の注意点について解説しました。上述の通り、35USC102(b)(1)(A)は発明者の同一性、 35USC102(b)(1)(B)は、発明対象の同一性がポイントになります。ここまで読んで頂きありがとうございました。この情報が役立つと幸いです。

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