米国における早期権利化の方法

米国実務

米国において特許審査を早期化する制度は複数あります。日本よりも少し複雑な制度設計であるため早期権利化の手法に関する情報を本記事では整理したいと思います。

米国審査を早期化する制度のポイント

日本の場合、早期権利化を希望する場合には、早期審査を請求するか、又はPPHを利用するかの2パターンと比較的シンプルです。これらの制度の利用には庁費用もかかりませんので割と気軽に利用することができます。

他方で米国にて審査をスピードアップする制度は全部で4つ存在します(PPH、早期審査、優先審査、出願人の年齢等に基づく申請)。日本と相違し、これら4つの制度は庁費用が必要なものもあります。もっともこの中で一番利用されるのはPPHであり、PPHに関しては日本とは大差ありません。他3つの制度については、ケースバイケースで利用検討の余地があるため、それぞれの制度のポイント、特徴、主な要件を以下に整理致します。

Patent Prosecution Highway Program(PPH)

米国では日本と同様に他国でクレームの少なくとも1つが特許許可可能とされた場合にはPatent Prosecution Highway Program(PPH)の利用が可能です(MPEP 708.02(c) Patent Prosecution Highway Program [R-07.2015])。PPHを利用した場合、早期権利化が見込めます。PPHを利用する場合には、以下の要件を具備することが必要です。

  • 許可可能とされた他国出願を先の出願とする優先権主張を伴うこと
  • 許可可能とされたクレームと、米国出願のクレームとが十分に対応すること
  • 最新のOAの写しと英訳を提出すること
  • 引用文献のIDSを提出すること
  • PPHの申し出をすること

米国はGlobal PPH、IP5 PPHの他、Global PPH非加盟の国とのPPHもあります。日本の出願人にとっては、日本の審査結果に基づくPPH、PCTのISRに基づくPCT-PPHを、庁手数料無しに利用することができます。

詳細なガイドラインは以下のJPOのwebsiteにあります。「グローバルPPH参加庁」の米国の欄にて日本語版、英語版で用意されています。

特許審査ハイウェイのガイドライン(要件と手続の詳細)・記入様式 | 経済産業省 特許庁
特許審査ハイウェイは、出願人の海外での早期権利化を容易とすると共に、各国特許庁にとっては第一庁の先行技術調査と審査結果の利用性を向上し、審査の負担を軽減し質の向上を図ることを目的としています。

早期審査制度(Accelerated Examination)

早期審査制度(Accelerated Examination)も早期権利化の手法の1つです。こちらを利用する場合には原則的に庁費用が必要で、現時点(2022年2月4日)では$140です。早期審査の主な要件は以下のとおりです(708.02(a) Accelerated Examination [R-10.2019])。

  • 庁手数料の支払い($140)、又は所定技術分野の発明(エネルギー資源の開発・保護、環境品質の保護、テロ対向に対する発明)であればステートメント(この場合は庁手数料は不要)の提出とともに申請すること
  • 独立クレーム数が3以下、総クレーム数が20以下であること
  • 審査前サーチ(preexamination search)を行った旨のステートメントを提出すること
  • 以下の内容を含む早期審査サポートドキュメントを提出すること
    • IDS
    • 本願クレームの構成要件に関して先行文献に開示されている箇所
    • 本願クレームの特許性の具体的な説明
    • 本願クレームの有用性(Utility)に関する簡潔な説明 (Design Patentを除く)
    • 本願クレームが明細書でサポートされていること(112(a)の要件を具備すること)の説明
    • 102(b)(2)(C)の例外規定に該当する可能性のある文献

上記の要件にある通り、審査前サーチ及びサポートドキュメントの用意のための工数負担が大きいです。早期に審査を受けられ、所定技術分野の発明であれば庁費用は無料であるとはいえ、サーチ負担が大きなデメリットと考えられます。またOAに対しては、2ヶ月以内に応答する必要があり、この点にも留意が必要です。この期間に応答できない場合は、通常の審査となります。

優先審査 (Prioritized Examination)

優先審査は、別名”Track One”とも呼ばれる制度です。こちらは他の制度と比較して高額の庁手数料($4000)を支払うことで、最も早期に審査を進められる制度です。優先審査の主な要件は以下の通りです。(MPEP 708.02(b) Prioritized Examination [R-10.2019])

  • 出願と同時・又はRCEと同時に申請すること(PCTで国内移行手続きをするケースでは、この要件を満たしません。ただしRCEと同時であればこの要件を満たします。)
  • 庁手数料の支払い($4,000)がされること
  • 独立クレーム数が4以下、及び総クレーム数が30以下であること

OAに対しては通常の応答期間(3ヶ月)以内に応答する必要があります。延長した場合、クレーム数を要件より増やした場合(例えば独立クレーム数を5以上にした場合)は、通常の審査となります。

出願人の年齢等に基づく申請(Petition to Make Special)

稀なケースですが、発明者が65歳以上の場合には、庁費用無く早期に実体審査を受けられます。この場合は、発明者の少なくとも1名が65歳以上であることをステートメントにより示す必要があります(MPEP708.02)。

同様にこちらも稀なケースですが、発明者の健康状態が悪く、出願の審査において助言等が困難な場合には、庁費用無く早期に実体審査を受けられます。この場合は、医師の診断書により示して申請する必要があります(MPEP708.02)。

Petition to Make Specialの注意点

上述の出願人の年齢等に基づく申請に関する説明のあるMPEP708.02には、冒頭に37 CFR 1.102 Advancement of examinationの引用があります。以下その一部を引用します。

(c) A petition to make an application special may be filed without a feeif the basis for the petition is:
(1) The applicant’s age or health; or
(2) That the invention will materially:
(i) Enhance the quality of the environment;
(ii) Contribute to the development or conservation of energy resources; or
(iii) Contribute to countering terrorism.

37 CFR 1.102 Advancement of examination.

この部分だけを見ると、Petition to Make Specialは、出願人の年齢・健康状態以外の理由でもできるように読めてしまいます。つまり37 CFR 1.102(c)(2)にて、所定技術分野の発明(エネルギー資源の開発・保護、環境品質の保護、テロ対向に対する発明)についてPetition to Make Specialが庁費用無しにできると読めてしまいます。

しかしながら、MPEP708.02には以下の注意書きがあります。

See the version of MPEP § 708.02 in force in August 2010 (Eighth Edition, Revision 9) for guidelines and the requirements for a petition to make special filed in an application before August 25, 2006. A petition to make special filed on or after August 25, 2006 will only be granted if it is based upon applicant’s health or age, is under the PPH pilot program (see MPEP § 708.02(c)), or complies with the requirements set forth in MPEP § 708.02(a). For a request for prioritized examination under 37 CFR 1.102(e) filed on or after September 26, 2011, see MPEP § 708.02(b).

MPEP 708.02 Petition To Make Special [R-10.2019]

つまり2006年8月25日以降である現状では、Petition to Make Specialは以下3パターンしか使えないとされています。

  • 出願員の健康状態又は年齢
  • PPH (MPEP § 708.02(c))
  • MPEP § 708.02(a)の要件を具備する場合 (上記早期審査(Accelerated Examination)の要件を具備する場合)

言い換えると37 CFR 1.102(c)規定のPetition to Make Special (純粋な庁費用無料のPetition to Make Special)は、出願人の健康状態又は年齢のみに限定されていることになります。所定技術分野の発明については、3つ目の「MPEP § 708.02(a)の要件を具備する場合」にあたり、上述の早期審査制度(Accelerated Examination)の要件を満たす必要があります。

まとめ

米国にて審査をスピードアップする制度4つ(PPH、早期審査、優先審査、出願人の年齢等に基づく申請)について、日本と要件が相違する部分も含めて紹介しました。ここまで読んで頂きありがとうございます。

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