米国の特許クレームを作成する際に気をつけるべき事項として、オールエレメントルール(All Element Rule)、シングルエンティティルール(Single Entity Rule)というものがあります。これらは米国特許出願のクレームドラフティングの際には十分に注意しなければならないルールです。また日本の特許をベースに米国出願する場合には、日本の特許出願時にも留意すべき事項と言えます。以下、簡単に解説したいと思います。
オールエレメントルール (All Element Rule)
オールエレメントルールは、特許侵害しているか否かを判断する要件の一つです。要するに、特許侵害(35 USC 271(a))は特許のクレームの全エレメントを具備している場合に成立する、というルールです。
例えば以下の特許クレームを考えてみましょう。
Claim 1: The device comprising: an element a; an element b; and an element C.
この場合、オールエレメントルールに基づき、権原なき第三者が、要素a、要素b、及び要素cを全て具備している製品を製造販売等している場合に、特許侵害が成立するということです。
他方で、権原なき第三者が、要素aと要素bだけを具備し要素cを具備していない製品を販売等している場合は、特許権侵害にはならない、ということになります。
クレームを作成する場合、特にメインクレームを作成する場合において、その発明にとって必須の要素以外(不要な限定)をできる限り削ぎ落とす必要があるのは、このオールエレメントルールに基づきます。
シングルエンティティルール (Single Entity Rule)
シングルエンティティルールも、特許侵害しているか否かを判断する要件の一つです。日本語に直訳すると「単一主体ルール」というものですが、要するに、特許侵害は、特許の全構成を単一の主体が実施している場合に成立する、というルールです。このルールは特に方法クレームの場合に問題になってきます。
例えば以下の特許クレームを考えてみましょう。
Claim 1: The method comprising: a step A; a step B; and a step C.
この場合、シングルエンティティルールに基づき、権原なき第三者が単独で、step A、step B、及びstep Cの全てを具備する方法を使用している場合に、特許侵害が成立するということです。
クレームを作成する場合、特に方法のメインクレームを作成する場合において、全ステップの実行主体が単一の主体になるようにする必要があります。
ここでシングルエンティティルールについては、Akamai事件という重要な裁判例があります(Akamai Techs., Inc. v. Limelight Networks, Inc., 797 F.3d 1020 (Fed. Cir. 2015))。Akamai事件では、Akamai社が保有する特許が複数の主体により実行されたため、シングルエンティティルールとの関係で問題になりました。
Akamai事件(2015年8月)
まず結論として、この事件ではAkamai社の保有特許が複数の主体(Limelightとそのユーザ)により実行されましたが、最終的にLimelightの直接侵害が認められました。シングルエンティティルールの下、どうして直接侵害が認められたかを押さえておく必要があります。
本事件のポイントとして、CAFCの判決において複数の主体(ここではA,Bとします。Bが一部のステップを実施する行為者とします。)により特許の方法が実施されているとき(”Divided Infringement”と言われます)は、以下の条件を満たす場合に直接侵害が成立すると判示されました。
- where that entity directs or controls others’ performance, and
- where the actors form a joint enterprise
意訳すると以下の通りです。
- AがBの当該ステップの実施を指示又は管理している場合
- AとBとが共同事業体(a joint enterprise)を形成している場合
ここで、1つ目の場合の”directs or controls”「指示又は管理」している場合について以下の場合であると判示されました。
- it acts through an agent (applying traditional agency principles) or contracts with another to perform one or more steps of a claimed method.
- an alleged infringer conditions participation in an activity or receipt of a benefit upon performance of a step or steps of a patented method and establishes the manner or timing of that performance.
これらも意訳すると以下の通りです。
- Bが代理人として方法クレームの一部のステップを実施した場合、又はAとBとの間に契約関係があり、方法クレームの一部のステップを実施した場合(AとBとの間に代理関係、契約関係がある場合)
- AがBに対して方法クレームの一部のステップの実施をアクティビティの参加又は利益享受のための条件として設けている場合であって、当該実施の態様、タイミングを設定している場合
このようにBによる方法クレームの一部のステップの実施がAに起因する場合には、Aによる直接侵害が成立するとされています。
Akamai事件の方法クレームと、Limelightによる実施態様
もう少し具体的にAkamai事件を見ていきたいと思います。Akamaiの保有特許の方法クレームは以下のとおりです。
- 対象特許: US6108703A
- 出願日: 1999/5/19
- 対象クレーム: Claim 19, 34
Claim 19, 34はそれぞれ、A content delivery service、A content delivery methodのクレームです。クレームの構成はいずれも実行される行為により規定されており、方法のクレームとみなせます。ここではClaim 34を以下に引用します。
34. A content delivery method, comprising:
Claim 34 of US6108703A
distributing a set of page objects across a network of content servers managed by a domain other than a content provider domain, wherein the network of content servers are organized into a set of regions;
for a given page normally served from the content provider domain, tagging at least some of the embedded objects of the page so that requests for the objects resolve to the domain instead of the content provider domain;
in response to a client request for an embedded object of the page:
resolving the client request as a function of a location of the client machine making the request and current Internet traffic conditions to identify a given region; and
returning to the client an IP address of a given one of the content servers within the given region that is likely to host the embedded object and that is not overloaded.
このうち、上記の下線部分を除くステップはすべてLimelightのサービスにより実行していました。他方で下線部分のtagging(タグ付けステップ)は、Limelightのユーザにより実行されていました。
CAFCでは、Limelightがユーザによるタグ付けステップの実施を指示又は管理しているとしました。特にLimelightとユーザ間に契約が存在したこと、当該契約において、Limelightのサービスを利用するにはタグ付けステップを実行することが条件付けられていたことがその証拠となりました。
小括
以上、Akamai事件にて判示されているように、シングルエンティティルールには例外があるということになります。したがって方法クレームで複数の主体により特許発明が実施されている場合であっても、特許侵害の主張ができる可能性がありますし、逆に実施する側の視点では、複数主体で実施している場合でも特許侵害リスクがあるといえます。
ここではAkamai事件を説明しましたが、複数主体による特許権侵害は、他にも多数の裁判が存在しています(例えばMcKesson事件(McKesson v. Epic (Fed. Cir., April 12, 2011)), Advanced Software Design事件(Advanced Software Design Corp. v. Fiserv, Inc. (Fed. Cir. 2011)等)。無用な争いを避ける観点では、クレームドラフティングの際にはできる限り単一主体により実施されるようにクレームするのが望ましいと言えます。
まとめ
米国の特許クレームを作成する際に気をつけるべき事項として、オールエレメントルール(All Element Rule)、シングルエンティティルール(Single Entity Rule)を説明しました。ここまで読んで頂きありがとうございます。



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