Claim differentiationって耳にしたけど、これってなんだろ?役立つのかな?
さて、ここでは米国実務上の基本原則である、Claim Differentionについて説明したいと思います。米国特許においてサブクレームを充実させておくメリットの一つはこの原則に基づくものです。米国特許のクレーム作成に加えて、日本の基礎出願のクレーム作成にも役立つと思いますので、順番に説明していきたいと思います。
The Doctrine of Claim differentiation
正確には The Doctrine of Claim differentiationと言われるこの原則は、米国特許実務のクレーム解釈において適用されるものです。簡単にいうと、メインクレームのある構成要素をサブクレームで限定して規定した場合、メインクレームの構成要素は、サブクレームで明示した内容よりも広いものを含むという原則です。
サブクレームを作成するメリットのひとつ
例えばこの原則によれば、Claim 1の「多角形」は、六角形以外を含みます(四角形、三角形など)。
- Claim 1: 断面形状が多角形の筆記具。
- Claim 2: Claim 1の筆記具であって、断面形状が六角形である筆記具。
そんなの当たり前じゃないの?
はい、当たり前といえば当たり前の原則です。ただClaim1の文言の定義(ここでは「多角形」)を巡って争いの余地がある場合には非常に重要になってきます。ここでは「多角形」を限定したものがClaim 2の「六角形」であるため、The doctrine of claim differentiationの原則によると、Claim 2の限定的記載によりClaim 1の「多角形」が広く解釈されることになるからです。
事実ベースでいうと、”code”とのクレーム文言の定義について争われて、サブクレームがあったことにより、この”code”の意味が広く解釈された裁判例があります(Interdigital Communications, LLC v. International Trade Commission, 690 F.3d 1318 (Fed. Cir. 2012))。なおこの裁判例では、CDMA方式で使われているspreading codeについて、claim 1ではcodeとのみ記載していました。ITCではspreading codeを表すとして狭く解釈されたものの、控訴審であるCAFCでは、claim 5にてspreading codeと限定していることから、claim1の”code”は、spreading codeだけでなく、non-spreading codeも含むとして広く解釈されました。
へぇー。でも明細書でしっかり書いておけばいいんじゃないの?
その通りなのですが、クレームで記載した全ての文言の定義を限定されないように明細書だけに頼って明細書の記載を完璧にするのも実務上難しいところです。そのため利用できるものは利用したほうがいいというのが実情ですね。裁判例も、CDMA方式では通常、spreading codeを用いるのが常識であることから、あまりcodeという文言については明細書上は詳細にはカバーできていなかったのだと思われます。このような、一見当たり前の文言について、サブクレームで限定した記載をしておくことで、後々の技術動向にも備えることができるというわけです。
なお、 The doctrine of claim differentiationの原則は、サブクレームをさらに限定するサブクレームが存在する場合にも同様に適用されます。つまり従属先のクレームは、独立クレーム・従属クレームいずれであってもこの原則が適用されることになります。要するに、サブクレームを多段階で規定しておくのも得策ということですね。
一般的にサブクレームを作成するメリットとしてよく挙げられるのは以下の1-3です。これに加えて4つ目のClaim Differentiationも有利に働くものですからぜひ押さえておきましょう。
まとめ
米国特許実務において、Claim Differentiationは重要で、サブクレームを作成する大きなメリットの一つです。この原則も意識してクレームドラフティングをすることを推奨します。ここまで読んでいただきありがとうございます。
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