知っておきたい最近のビジネスモデル特許

日本特許

ビジネスモデル特許の検討・相談を受けることがこの業界ではよくあると思います。そこでこの記事では、どんなビジネスモデルが特許になっているのか、その具体的な代表例を解説したいと思います。ここで着目した特許は、過去にTV番組(TBS, がっちりマンデー)で紹介されていた特許6517972号(空域利用促進システム、空域利用促進方法、サーバ装置、及びプログラム)です。ビジネスモデル特許の出願検討の際に参考になればと思い、実務家視点での解説をしていきたいと思います。

特許の概要及び対象としているビジネスモデル

特許6517972号の特許発明は、ドローンを利用したビジネス(ドローンによる配送等)に関するものです。この特許はドローンによる空域利用に焦点を当てています。ドローン等を飛行させる場合、自由に飛行させることができず、土地所有者等の権利者の承諾を得る必要があります。これは土地所有者が土地の上空の空域に関して所定の権利を保有するためです。今後の高齢化、人口減少、過疎化等に鑑みると、ドローンによる配送は増加が予想されることからも、どの時間帯にどの程度のドローンを飛ばすか等、空域管理の重要性が増すことが考えられます。

この特許発明が対象としているものは、空域を「スカイドメイン」という形式で特定して空域の権利者の空域情報を登録し、空域情報を使って空域を利用したい利用者とのマッチングを行う取引のビジネスモデルです。特許の書誌事項は以下のとおりです。

  • 出願日:2018年3月22日
  • 審査請求日(早期審査対象出願):2018年8月22日
  • 特許権者:株式会社トルビズオン
  • 要約:空域権利者と空域利用者とをマッチングすることで空域利用を促進し、かつ飛行の安全性を向上させる。

クレームの内容

まずは特許の一番重要な部分、特許請求の範囲(クレーム)を見ていきたいと思います。

【請求項1】
  情報端末と通信自在であり、空域を特定するもので少なくとも第1乃至第3ドメイン情報で構成されるスカイドメインを発行するサーバ装置であって、
  前記情報端末からのスカイドメイン発行要求を処理する受付処理部と、
  前記発行要求に基づきスカイドメインを発行するドメイン発行部と、
  少なくとも前記スカイドメイン、代表点の緯度、経度、標高、及び利用可能時間を記憶する記憶部と、
  前記情報端末より、前記スカイドメインが発行された前記空域に関する検索要求があったときに、前記記憶部を参照して、前記スカイドメインを検索キーとした検索を行う検索部と、
  前記情報端末より、前記スカイドメインが発行された前記空域に関する利用要求があったときに、前記記憶部を参照して、前記スカイドメインを介した空域利用に関する取引を処理する取引処理部と、
  前記検索の結果を送信する送信処理部と、を有し、
  前記ドメイン発行部は、前記第1ドメイン情報を予め定められた文字列からなるトップスカイドメインとし、前記第2ドメイン情報を空域権利者のエリア情報に基づいて特定される前記エリア情報に対応する文字列からなる第2スカイドメインとし、前記第3ドメイン情報を申請者である空域権利者の情報端末より送信された文字列からなる第3スカイドメインとして、前記スカイドメインを発行し、
  前記検索部は、前記記憶部に記憶されている情報に基づいて検索を実行し、前記送信処理部は、前記検索の結果を前記情報端末に送信し、前記取引処理部は、前記記憶部に記憶されている代表点の緯度、経度、標高、利用可能時間に基づいて取引を処理する
  サーバ装置。

特許6517972号

クレームの要点は以下のとおりです。

  • 空域権利者と空域利用者とをマッチングする処理を行うサーバ装置のクレーム
  • 空域は、スカイドメインにより特定される
    • スカイドメインは、第1ドメイン情報〜第3ドメイン情報で構成される。
      • 第1ドメイン情報は固定文字列(トップスカイドメイン)
      • 第2ドメイン情報はエリア情報に基づいて特定される文字列(第2スカイドメイン)
      • 第3ドメイン情報は空域権利者が決める文字列
  • サーバは以下の構成を備える
    • 受付処理部、ドメイン発行部:空域権利者からのスカイドメイン発行要求を処理
    • 記憶部:スカイドメインと、空域の情報(緯度・経度・利用時間等)とを記憶
    • 検索部、取引処理部:空域利用者からの検索要求、利用要求を処理

ソフトウェア関連発明の形で権利化

特許のクレームを見てお気づきの通り、本特許発明はビジネスモデル自体を対象とはしておらず、ソフトウェアを利用することによるビジネスモデルの具体的な実現手法です。このようにビジネスモデルは、ソフトウェア関連発明として権利化するのが通例です。

ビジネスモデル特許を出願する際に、ソフトウェアや機能などの具体的特徴ではなく、コンセプトを権利化したいというお話をよく耳にします。しかしながらビジネスモデルそのもの(ビジネスモデルのコンセプト)は特許化困難である点は押さえておきたいところです。ビジネスモデルのコンセプトが特許化困難である理由は2つあります。1つ目の理由は、ビジネスモデルのコンセプトが特許法の保護対象でないと判断される可能性が高いためです(特許法2条1項にて、特許で保護される発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されています)。例えばゲームのルール自体などの人為的な取り決めは、特許保護対象外の発明の具体例として審査基準に挙げられています(特許・実用新案審査基準 第3部 特許要件 第1章 発明該当性及び産業上の利用可能性)。ビジネスモデルのコンセプト(例えばピザの宅配を30分以内に行い、時間に遅れたら割引をするようなビジネス上のコンセプト等)は人為的な取り決めに該当するため保護対象ではないと判断されます。他方でソフトウェア等の技術的手段を用いてビジネスモデルを実現する方法は特許保護対象の発明とされています。多くのビジネスモデル特許は、ソフトウェア発明の形態で特許化されています。

またビジネスモデルのコンセプトそのものは、すでに先行技術がある可能性も高く、これが特許か困難である理由の2つ目です。本件でも、空域の登録・利用に関する先行技術が特許庁の審査において示されており、審査結果として一度拒絶を受けています。以下、審査結果の概要とその対応を説明します。

当初クレーム、先行技術、及び審査結果

本特許の出願当初の請求項1と、この請求項1に対して審査で引用された先行技術は以下の通りです。

  • 出願当初の請求項1
     情報端末と通信自在であり、空域を特定するもので少なくとも第1乃至第3ドメイン情報で構成されるドメインを発行するサーバ装置であって、 
     前記情報端末からのドメイン発行要求を処理する受付処理部と、
     前記発行要求に基づきドメインを発行するドメイン発行部と、を有し、
     前記情報端末からは、少なくともエリア情報と第3ドメイン情報が送信され、
     前記ドメイン発行部は、前記第1ドメイン情報を予め定められた文字列とし、前記第2ドメイン情報を前記エリア情報に対応する文字列とし、前記第3ドメイン情報を情報端末より送信された文字列とし、ドメインを発行するサーバ装置。
  • 引用文献1.特開2013-156991号公報
  • 引用文献2.JUIDAがゼンリン、ブルーイノベーションとともに日本初のドローン専用飛行支援地図サービスを共同開発へ,けいはんな情報通信フェア2015,日本,2015年12月14日
  • 引用文献3.国際公開第2016/130755号

このうち1つ目の特開2013-156991号公報をベースとして、本件には進歩性がないと審査官は指摘しました。ここで引用文献1には、地図上の空間に識別子をマッチングさせて検索可能にすることが記載されています。引用文献1と本件とで異なるポイントは主に以下の2点です。

  1. 引用文献1には、地図上の空間が、空域を含むか否かは定かではないこと
  2. 引用文献1の識別子が、ユーザにより定められた文字列であることは記載されていないこと

1つ目の相違点について審査官は、「地図上で実際の空域を示すことは広く知られた事項である」としました。この根拠として引用文献2を引用しました。また2つ目の相違点について審査官は、他の空間情報と識別可能なようにユーザにより定められた文字列に置換することは当業者には自明であるという論理付けをしました。以上より、引用文献1と本願とは異なるものの進歩性が無いとして審査官は拒絶しました。

出願人の主張(進歩性の主張)

上記の審査結果に対し、出願人は請求項1の内容を補正しつつ、引用文献との相違を主張しました。具体的には、第2スカイドメインが空域権利者のエリア情報に基づいて特定されるエリア情報に対応する文字列からなる点が引例には記載がないこと、及び第2スカイドメインをこのような特別な文字列にすることによる引例には無い有利な効果(各県の略語(東京tk、福岡foなど)をスカイドメインに盛り込むことで一見してエリア情報等が確認可能)を、明細書の記載に基づき主張しました。結果として、進歩性の拒絶を解消することに成功しました。

まとめ

この記事では、どんなビジネスモデルが特許になっているのか、その具体的な代表例を解説しました。ビジネスモデル特許の出願検討の際に参考になれば幸いです。ここまで読んで頂きありがとうございました。

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