特許査定率について押さえておきたいポイント

特許分析

特許は出願しただけで独占的な権利を得られるわけではなく、特許庁の審査又は審判をパスした場合(特許査定・特許審決を得た場合)にのみ、独占的な権利(特許権)を得ることができます。日本の直近の特許査定率は、74.4%(2020年)です(特許行政年次報告書2021年版 本編)。これだけを聞くと、全体の約3/4の特許出願が審査にパスする印象を持ちますが、実際には全出願のうち3/4が特許になるわけではありません。この記事では特許査定率にについて押さえておくべき情報を説明したいと思います。

ポイントその1:「特許査定率」の定義

日本では特許査定率は以下の数式で定義されています。

特許査定率=特許査定件数/(特許査定件数+拒絶査定件数+FA後取下げ・放棄件数)

分子の「特許査定件数」は、ある年に特許庁がした査定のうち、特許査定の件数です。他方で分母の「拒絶査定件数」は、ある年に特許庁がした査定のうち、拒絶査定の件数です。FA後取り下げとは、審査官による一次審査着手後に取り下げ・放棄された出願件数です。典型的には、最初の拒絶理由通知を受けた後に取り下げるケースが該当します。逆にいうと、一次審査着手前に取り下げられた出願は、分母からは除かれます。例えば出願審査請求をせずにみなし取り下げになるものは、分母からは除かれます。つまり、分母は特許庁の審査官により特許発明の中身が審査された件数に絞られています。つまり分母は厳選された特許出願の件数ともいえます。分子はその中で特許査定が得られたものというわけです。

ポイントその2: 出願審査請求をしない特許出願も加味すると、全特許出願の5割程度が特許査定

出願人は実際に権利化を望むもの、特許が取れる期待値の高いものを出願審査請求する傾向にあります。出願審査請求時の特許庁への費用は特許出願時と比較して高額であることからも、あまり価値の高くなくなってしまった特許、あるいはそもそも防衛目的で出願した特許は審査請求をしません。ここで、全体の特許出願のうち約7割程度の特許出願は、出願審査請求がされています(特許行政年次報告書2021年版 本編)。そうすると、全出願のうち特許査定になっているものは約5割程度ということになります。逆にいうと全出願のうち、特許が得られていないもの(拒絶査定、みなし取り下げ、放棄)も約5割程度ということになります。

上記に基づき、実際の特許査定率は5割程度だ、というのは早計ですが、出願審査請求時に特許性を考慮して敢えて審査請求しない案件は、実質的には審査をパスしていないに等しいとも言えます。したがって安易に、日本の特許出願は、約75%は特許になる、というように考えるのもいかがなものかと思われます。

以上より出願時に参考にする特許性の統計データとしては、あくまで参考値として捉えるのがよいと思います。特許行政年次報告書にて公表されている特許査定率を、その定義を考慮せずにそのまま鵜呑みにするのは得策ではないと思われます

ポイントその3:最新の特許査定率の入手方法

特許査定率を含む統計データは、特許庁のHPで公表されています。具体的には、毎年6月〜7月頃に公表される特許行政年次報告書に最新のデータが記載されています。特許行政年次報告書のリンクは以下です。

特許行政年次報告書 | 経済産業省 特許庁

特許行政年次報告書はサーチ可能なpdfの形式で提供されています。pdfで「査定率」と検索すれば、最新の特許査定率をすぐに探すことができます。また特許行政年次報告書には主要5カ国の特許査定率も記載されています。日本の特許査定率が他の国と比べて比較的高いこともわかります。ただしこの点も注意が必要です。例えば米国の場合は、出願審査請求制度がなく、全件が審査対象になるため、一般的には出願審査請求制度が無い国よりも特許査定率が低下する可能性が高いです(ただ、米国の特許査定率はそれでも高水準で、2019年は日本・欧州等を上回っています。主要5カ国で第1位です)。また欧州は日本同様に出願審査請求制度があります。特に欧州は米国・日本と比べて審査が進むのが遅く、他国での審査結果に基づく拒絶も起きやすく、比較的特許査定率は低めです(64.5%(2020年))。

主要5カ国の統計データは、以下のIP5 Statistics Reportが元データです。主要5カ国の最新・詳細情報は以下の統計データを参照することで入手可能です。本記事の特許査定率については、以下websiteから入手できるIP5 Statistics Report 2020 final_23122021.pdfのp.69 (Table 4.3: Statistics on the Procedures)に最新の統計データが記載されています。また各国の特許査定率の定義は、p.69 GRANT RATEに記載されています。

IP5 statistics reports | fiveIPoffices
The IP5 statistics reports facilitate an understanding of each Office's operations and increase general awareness about patent grant procedures among the Office...

まとめ

以上、特許査定率にについて押さえておくべき情報をまとめました。特許行政年次報告書にて公表されている特許査定率を、その定義を考慮せずにそのまま鵜呑みにするのは得策ではないと思われます。ここまで読んで頂きありがとうございました。

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