知財業界で働く上で知っておきたいポイント

資格試験

要点

理系の大学生・大学院生が就職先として知財業界を考える場合、あるいはエンジニアが知財業界への転職を考える場合、知財実務の実情を知っておくことが有益と思います。本記事では、理系の大学院を卒業後、知財業界で長年働いてきた観点から、知財業界で働く上で知っておきたいポイントをまとめたいと思います。

高校・大学での勉強が役に立つ

知財業界での業務は、高校・大学での勉強(特に数学、理工系科目、英語)が役立ちます。これは大きな魅力の一つとも思います。高校生の頃に、微分積分やベクトル等の勉強が何の役に経つんだろうと考えたことはないでしょうか?また大学生・大学院生の頃、専門的な勉強や研究が、研究者・技術者にならない場合に自分の将来の仕事に意味があるのかと思った経験はないでしょうか?知財業界ではこれらの勉強等が役に立つ可能性がかなり高いです。例えば特許明細書を読むとき、企業や大学の技術者・研究者から特許相談を受けたとき特許明細書の中の技術的事項を書くとき等、理工系科目の基礎知識があれば効率的に仕事を進めることができます。したがって勉強が好きな人又は得意な人、これまでの勉強を活かしたいと考えている人には適正がある業界だと思います。

知財業界で働くなら弁理士資格は必須

前提として知財業界は弁理士資格が無くても働けますし、実務経験が最も重要な世界です。特許実務に関していえば、理工系の基礎知識があり、デスクワーク等の事務作業をこなすことができれば担当できる仕事です。知財業界と自分の適正を知りたい、弁理士試験の勉強するかどうかは就職・転職してから決めたい、という場合、まずは無資格で飛び込んでも問題無い業界といえます。私自身も、新入社員時は無資格で、弁理士試験の勉強もほぼ全くしていませんでした。

ただ知財業界で専門性を高めて活躍したいのであれば、弁理士資格は絶対にあったほうが良いです。特に特許事務所で働く場合は、弁理士資格があれば収入も高水準ですし顧客の信頼も得やすいですし、もし職場が合わなければ転職もしやすく、さらには起業も可能です。また弁理士資格を保有していれば、代理人として特許出願に名前が掲載されるため、自己の実績を公にできます(掲載されない事務所もありますので、もし実績を公にしたい場合には事務所を選ぶ際にJ Plat Patで確認することをお勧めします)。また弁理士試験で学んだ知識、及び、試験準備において知らないことを調べる習慣はそのまま実務で役立ちます。きちんと勉強した人、勉強を継続する人が活躍できる世界なので、勉強が好きな人又は得意な人は知財業界の適正が高いと思います。

企業の知財部等で働く場合には、代理業務をするわけではないので資格は必須ではありません。ただし弁理士資格を有していたほうが昇進等に有利になります。企業知財部の部長・課長にも資格保有者は多数います。また企業知財部の業務のうち、特に権利化業務及びライセンス業務においては、専門性をどれだけ発揮できるか、また社内外で専門性を示せるかで業務の質や生産性が変わってくるようにも感じます。

弁理士試験には多大な労力と費用がかかります。私は就職後に勉強を開始し、約2年程度、就業後と週末は勉強漬けでした。その間に要した費用は約100万円程度(試験費用、書籍、模擬試験代)でした。幸いにも資格取得後の昇給や転職で金銭的には十分に投資を回収でき、投資効果は十分にあったと実感しています。

侵害訴訟代理付記は必要?

弁理士試験に合格した後、さらに目指せる資格として侵害訴訟代理付記試験を目指すのも一案です。試験勉強を通じて訴訟業務の知識を得ることができる等、視野を広げる観点で有益と思います。詳しくは以下の記事をご参考下さい。

さらにその先は?

弁理士試験に合格した後、弁護士を目指すというのもキャリアパスとして存在します。私の知り合いでも弁理士試験合格後に弁護士資格に挑戦し、見事合格した人も数人います。もしより広く法曹界でキャリアアップを図りたいという場合にはこのようなキャリアを目指すこともできます。

また別のキャリアパスとして、知財の専門性をより尖らせていく方向性もあります。具体的には海外の弁理士、米国パテントエージェントを目指す等です。私はどちらかというとこの方向性を目指しています。米国パテントエージェントは以下の記事をご参照下さい。

なお知財検定等の民間資格もあります。私自身は挑戦したことはないため、詳細はあまりわかりません。ただ事実としては、私の周囲に民間資格を保有している人がほとんどおらず、そこまでは有益ではないように感じます。もちろん上述の通り、試験勉強での習慣自体が仕事に役立ちますので、知識を得ること、学ぶ習慣をつけるという意味では十分効果があると思います。

英語力は重要

このブログでも米国の法律、裁判例等を紹介していますが、知財はグローバルの仕事であり、知財の専門性を高めるためには英語力は重要です。場合によっては国内の特許実務しか業務で関わらないということもあり得ますが、仮にその場合でも英語力はあったほうがよいです。例えば国内の特許出願を基礎として外国出願する機会は頻繁にあります。国内の特許出願は、日本の特許法だけを気にしていればいいのではなく、外国出願にも耐えうる内容になっていなければなりません。要するに、国内の特許出願の品質を高める観点で、外国の制度にも精通しているほうが好ましいわけです。外国の制度をいち早く、正確に知るには英語力が重要です。また特許明細書等の文章を書く場合にも、英訳を意識した文章を書く必要があるため、英語力が必要になってきます。

この他、知財業界で働いていると、外国の代理人やクライアントと接する機会もあります。外国代理人のセミナーに出席する機会もありますし、場合によっては海外出張の機会もあります。知財業界での業務において、英語力は大変重要だと思います。英語が好きな人又は得意な人、留学経験がある人には適正がある業界だと思います。

私は、この業界で仕事をしてきて英語の重要性を肌で感じています。留学経験はありませんが、毎日英語の勉強を継続しています。

静か過ぎる環境に慣れる必要がある

これまで書いた事項とだいぶ離れる内容ですが、知財業界に入って一番衝撃を受けるのはこの部分と思います。企業の知財部も特許事務所も共通してオフィスは極めて静かで、図書館をさらに静かにしたレベルの環境です。知財業界に入ってある程度経過すると大体の人はこの環境に慣れると思います。今は在宅ワークだったりもするので気になりようがないのですが、新入社員の頃はとても辛かった思い出があります。

まとめ

理系の大学院を卒業後、知財業界で働いてきた観点から、知財業界で働く上で知っておきたいポイントをまとめました。就職先・転職先として知財業界を考える場合の参考になると幸いです。ここまで読んで頂きありがとうございました。

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