Teach awayの反論が使えるのはどういう場合か? (Crocs事件)

米国実務

本記事では103条(非自明性)の反論として有効なTeach awayについて判示されたCrocs事件(Crocs, Inc. v. U.S. Int’l Trade Comm’n, 598 F.3d 1294, 93 USPQ 1777 (Fed. Cir. 2010))について説明したいと思います。103条の基礎については以下の記事をご参照下さい。

要点

Teach awayは非自明性の拒絶に対する反論としてよく取り上げられるものです。Crocs事件では、Teach away(反対の教唆)に基づいてCrocsの保有する特許の非自明性が認められました。ここでTeach awayのロジックにおいては、先行技術が本願構成をdiscourage(阻止している)、unsuitable(不適切である)と積極的に否定している場合(“逆に教示”ということ)にのみ使えることがポイントです。Crocs事件でもこの点が判事されており、実務家にとって有益な知識が得られる事件と思います。日本の阻害要因の主張にも対応するものであり、日本の特許実務でも同様のロジックを活用できます。

なおこの事件は、MPEP2143 AのExample 4でも事件の概要が紹介されています。次のURLをご参照下さい。https://www.uspto.gov/web/offices/pac/mpep/s2143.html

本事件の解説

Crocsは自己の保有する特許 US6,993,858(“Breathable Footwear pieces”)を侵害する特許侵害品の輸入を止めるために米ITCに調査の申し立てをしました。当該調査において’858特許は先行技術の組み合わせに基づき自明であると米ITCは判断しました。この判断に不服としてCrocsはCAFCに控訴しました。CAFCでは先行技術の引例の組み合わせにはTeach awayがあるとして、米ITCの判断を覆しました。以下、’858特許の内容と、Teach awayの判断について解説したいと思います。

‘858特許の概要

‘858特許は、Crocsのサンダルに関する特許です。書誌事項及び代表図は以下のとおりです。

特許番号: US6,993,858
発明の名称: Breathable footwear pieces
特許権者(登録時): Crocs Inc.
出願日: 2003/6/23
登録日: 2006/2/7

US6,993,858 Fig. 1

代表クレーム

‘858特許の代表クレームはクレーム1です。クレームの骨子は以下のとおりです。

  • 基礎部分110とストラップ120とを備える
  • 基礎部分110は、アッパー150とソール162とを備え、成形フォーム材料から一体成型されている
  • ストラップ120は、成形フォーム材料により形成され、アッパー部分150の相対する端部にプラスチック接続部(リベット)131a, bにより取り付けられている。ストラップ120はリベット131a,bを中心に旋回可能。
  • ストラップ120とアッパー150とは直接接している。これにより生じる摩擦力により、旋回後にストラップの位置がキープされる。

クレーム1の文言

1. A footwear piece comprising:
a base section (110) including an upper (150) and a sole (162) formed as a single part manufactured from a moldable foam material; and
a strap section (120) formed of a moldable material that is attached at opposite ends thereof to the upper of the base section with plastic connectors (131a, 131b) such that the moldable foam material of the strap section is in direct contact with the moldable material of the base section and pivots relative to the base section (110) at the connectors(131a, 131b);
wherein the upper includes an open rear region defined by an upper opening perimeter (160), and
wherein frictional forces developed by the contact between the strap section (120) and the base section (110) at the plastic connectors (131a, 131b) are sufficient to maintain the strap section (120) in place in an intermediary position after pivoting, whereby the strap section (120) lends support to the Achilles portion of the human foot inserted in the open rear region; and
wherein the upper includes a substantially horizontal portion (152) and a substantially vertical portion (182) forming a toe region (155) that generally follows the contour of a human foot,
wherein the toe region (155) tapers from an inner area of the base section where the larger toes exist to an outer area of the base section where the smaller toes exist; and
wherein the sole (162) includes a bottom surface having front and rear tread patterns longitudinally connected by a flat section.

US6,993,858。可読性の観点で図1の参照符号を追記

米ITCの判断

米ITCは、先行技術1(Aqua Clog)と先行技術2(US6,237,249)に基づき、’858特許の発明は自明であるとしました。先行技術1、2の概要はそれぞれ以下のとおりです。

  • 先行技術1:ストラップを有さない点を除き、’858特許の発明と同一構成のサンダル
  • 先行技術2:ストラップを有するサンダル

米ITCは、先行技術1と先行技術2とを組み合わせることにより’858特許の構成となることから、本特許発明は自明であるとしました。

CAFCの判断

CAFCは、主に’858特許のストラップが成形フォーム材料から形成されていること、及び当該ストラップが、成形フォーム材料の基礎部分に直接接してリベット接続されていることが先行技術には記載されていないとしました。またその上でCAFCは、成形フォーム材料のストラップを用いることをteach awayしている事実を先行技術は示している指摘しました。具体的には以下の点がTeach awayの根拠とされました。

  • 成形フォーム材料のストラップは、伸びて変形しやすい。不快感を引き起こす。
  • ストラップは足に当たる部材であり、伸縮性が必要である。しかし成形フォーム材料は弾性がなく、足に擦り傷を引き起こす。
  • 先行技術ではバックル等でストラップを接続しており、経年劣化してストラップが伸びてしまった場合でも調整できるようにしている。
  • ストラップとして成形フォーム材料は、不適切な材料として認知されている。

以上の根拠に基づき、先行技術には、Teach awayがあるとして先行技術1及び2の組み合わせが否定されました。特に成形フォーム材料がストラップとしてinferior(劣っている)材料ではなく、unsuitable(不適切)な材料であるという事実が重要です。Teach awayのロジックにおいて、単にある材料、構成が好ましくない・劣っているというだけでは不十分です。該当する本願構成について、unsuitable(不適切)、discourage(阻止している)ということを先行技術が示している場合のみに使えます。つまりTeach awayのロジックは強力な反論ではあるものの、使える機会は限定的ということになります。

なお本記事の趣旨からは逸れるためここでは詳細は省きますが、CAFCでは、非自明性を肯定する根拠として、成形フォーム材料を用いたストラップによる予期せぬ効果、Crocsのサンダルの商業的成功についても言及されています。

まとめ

Teach awayは非自明性の拒絶に対する反論としてよく取り上げられるものです。Crocs事件では、Teach awayに基づいてCrocsの保有する特許の非自明性が認められました。典型的なロジックで自明性が認められていることから利用価値が高く、実務家にとって有益な知識が得られる事件と思います。ここまで読んで頂きありがとうございました。

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