日本の実務家がやりがちな米国応答時のミス 3選

米国実務

今回は、日本の実務家が米国のOA応答時にやりがちなミスについて説明したいと思います。以下のミスを気をつけることで、拒絶への応答がより効果的になり、無駄な工数、コストを省くことができます。

よくあるミス その1:OAで指摘されているRejectionの見逃し

OAで指摘されている拒絶を見逃すミスは割と頻繁にあります。典型的な例としては、102条、103条の拒絶がされているのにもかかわらず、現地代理人への指示書に102条の応答指示しか記載しないケースなどです。米国弁護士がこの部分を基本的にチェックしていますので、日本の知財担当又は日本の弁理士が見逃したとしても最終的な応答では、きちんと対応していることがほとんどです。しかし期限間近のケースでは米国代理人との確認作業(メールのやり取り)が生じてしまい、慌ててしまうこともあります。

まずそもそもですが、全ての拒絶に対して応答をしない場合、必ず拒絶は維持されます。なお全てのRejection及びObjectionに応答することは、出願人の応答時の義務であることが明記されています(37CFR 1.111(b) Reply by applicant or patent owner to a non-final Office action, 及びMPEP 参照。MPEP714.02 Must Be Fully Responsiveをご参照)。

このミスが生じる可能性がより高くなるのは以下のケースです。

  • 103条の拒絶などが、複数の異なる主引例によって行われている場合
  • 同一カテゴリの別メインクレームがある場合(例えば装置のメインクレームが複数ある場合)

この場合OAが比較的長くなる傾向にありますし、メインクレームだけに捉われると、後半に書いてある別の主引例に基づく拒絶を見逃しているケースがあります。

よくあるミス その2: 内容が重複するサブクレームの削除忘れ

応答時に、サブクレームの内容をメインクレームに組み込んで応答することがあります。このときに、内容が重複するサブクレームを削除する(Cancelする)のを忘れることがあります。

特に米国ではマルチクレームを使うメリットが無く、またマルチマルチクレームが認められていません。そのため、米国移行時にマルチクレームを分解してサブクレームにしている場合があります。例えば以下のような場合です。

※マルチクレームについての注意点は以下の記事をご参照下さい。

(例)PCT出願のクレームと自発補正の内容

  • PCT出願のクレーム
    • Claim 1: A device comprising: …
    • Claim 2: A device according to claim 1, further comprising: …
    • Claim 3: A device according to claims 1 or 2, wherein ….
    • Claim 4: A device according to any one of claims 1-3, wherein ….
  • 米国移行時の自発補正 (マルチクレームを全て分解している補正)
    • Claim 1 (Original): A device comprising: A and B.
    • Claim 2 (Original): A device according to claim 1, further comprising C.
    • Claim 3 (Currently amended): A device according to claims 1 or 2 claim 1, wherein A comprises a.
    • Claim 4 (Currently Amended) : A device according to any one of claims 1-3 claim 1, wherein B comprises b.
    • Claim 5 (New): A device according to claim 2, wherein A comprises a.
    • Claim 6 (New): A device according to claim 2, wherein B comprises b’.
    • Claim 7 (New): A device according to claim 3, wherein B comprises b’.

この対応自体は、米国実務上、大変好ましいです。ただし、例えば拒絶解消を目的として、Claim 3の内容をClaim 1に組み込む補正などをする場合には注意が必要です。具体的には、以下のように、Claim 3の内容に対応する他のサブクレーム及びClaim 3に従属するクレームを削除する補正も合わせてしなければなりません。

  • OA応答時の補正 (Claim 3の内容をClaim 1に組み込む補正)
    • Claim 1 (Original): A device comprising: A and B, wherein A comprises a.
    • Claim 2 (Original): A device according to claim 1, further comprising C.
    • Claim 3 (Canceled): A device according to claim 1, wherein A comprises a.
    • Claim 4 (Previously presented) : A device according to claim 1, wherein B comprises b.
    • Claim 5 (Canceled): A device according to claim 2, wherein A comprises a.
    • Claim 6 (Previously presented): A device according to claim 2, wherein B comprises b’.
    • Claim 7 (Canceled): A device according to claim 3, wherein B comprises b’.

※ここでは、わかり易さを重視してCanceledのクレームに打ち消し線を記して削除していますが、USPTOに提出する補正ではCancelクレームでは打ち消し線を示さず、単に、Claim 3 (Canceled).とだけ記載します。

特に上記の例では、Claim 5, 7の削除忘れが頻繁にありますので、ご注意下さい。クレームの構成、内容が長文・複雑であればあるほど、この削除忘れが起こりやすいです。

よくあるミス その3:クレーム、応答書でのスペルミス・文法ミス

クレーム、応答書でのスペルミス等もよく見かけるケアレスミスです。MS wordを使ってクレームのドラフトをしている場合などは、多くの場合で自動スペルチェックが入りアラートが出る(赤下線が引かれる)ため、これにより大半は防ぐことができます。ただし、MS wordの自動スペルチェックも万能ではありませんし、専門用語などにもアラートが出るため、これらのアラートに紛れることもあります。

そこで有効な対策の一つが、他のソフトを利用した自動スペルチェックです。私は基本的にMS wordによりスペルチェックを行っていますが、最終版については必ず、Google Docsのスペルチェックも使います。単純にWordで作ったドキュメントの全文をコピーして、Google Docsのドキュメントに貼り付けるだけです。これにより、Google Docsがスペルチェックをしてくれます。私の感覚では、MS wordではひっかからなくても、Google Docsでスペルミス・文法ミスが見つかるケースは結構頻繁にあります。例えば、MS wordでは三単現による動詞変化などを見逃すケースがたまにあるように思います。Google Docsを使うことでこれらももれなくチェックすることができます。Google Docsではなく他のワープロソフトを使うのでもよいと思いますが、MS Wordの自動チェッカー以外に、他の自動チェッカーを使うことを強くオススメします。

まとめ

以上、OAへの応答でやりがちなケアレスミスについて説明しました。上記のミスを気をつけることで、拒絶への応答がより効果的になり、無駄な工数、コストを省くことができます。ここまで読んで頂きありがとうございました。

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